1:そもそもパラレルが許せない
2:昼のメロドラマ的超展開は嫌い
3:キャラ崩壊?ありえない!
4:ペルソナ出てこないって何?
5:未完なんてもってのほか、ちゃんと完結してからアップして!
等に当てはまる方は申し訳ありませんがブラウザのバックでお戻り下さい。
「パラレルも黒天田も昼メロもOK!むしろドンと来い!」なお嬢様、
だらだら更新ですが、宜しければご笑覧下さい。
その年の寒さは厳しく、流行り病も起きた。 大人たちは口々に「悪い病気が流行っているが、変わりはないか」と尋ねあい、また口々に「これほどの寒さは記憶にない」と確かめ合った。 その記録的な寒さの中、身寄りのない年寄りや子供たちは皆、雨に濡れた小鳥のように肩を寄せ合い、小さな家族単位になり、細々と暮らしていた。 そんな、ある日。 何かがぶつかる鈍い音と共に薬屋の扉が開く。店内から転がるように出てきたのは、一目で身寄りのないと知れる少年。店の前に積もった雪に足を取られ、顔から突っ伏す。 薬屋の主人が怒鳴りながら少年の髪を掴んで引きずり起こす。一度、二度と顔を殴りつけるが、少年は胸に抱いた薬を放そうとはしない。 凍り付いたように静まり返っていた近所の商店から、騒ぎを聞いて一人二人と顔を出す。 止めに入ろうとする者がいる傍ら、成り行きを知った者が少年に対して唾を吐き、暖かい室内へと戻る。 「随分と、騒がしいね」 外の寒さなど感じない軽やかな少年の声。 凍りついた路面でスリップしないよう、ゆっくりと進んでいた黒塗りの高級車。 その車の中から外の騒ぎを見つめていた少年が運転席に向かって声を掛ける。 「あぁ、最近は孤児たちが商店のものを盗むことが多いそうですから、それでしょう」 声を掛けられた男は、興味もなさそうに、返事をする。 「ふぅん」少年は曇るガラスを指で擦る。開けた視界に、殴られる少年が見える。 「…幾月、車を止めて」 年の頃6、7歳にしては随分と大人びた口調で指示を出す。 幾月と呼ばれた男は、返事の変わりに僅かな振動を残して車を停止させる。 「このこそ泥が!…さっさとその手を離しやがれ!」 激昂した薬屋が周囲の静止も聞かず、少年を殴る。少年は悲鳴も上げず、ただひたすら薬を抱きしめ、身体を丸めて放すまいと抵抗をする。 「失礼、一体どうなされたのですか?」 春風のようなやわらかい声に、薬屋も振り上げた拳を止める。 一目で高級品と判る橙の外套をはためかせ、少年が降り立った。 「あ、……これは、天田のお坊ちゃん…」 振り上げた右手を隠すように背中に回して、薬屋が答える。 天田と呼ばれた少年はちらりと一瞥を残して、うずくまる少年に声をかける。 「お店の物を取るのは感心しませんけど、なにか理由があるんですか?」 その声に、口が利けないのかと思う程、うめき声一つも立てなかった少年が僅かに身じろぎする。見えた横顔は、鼻血に汚れ、苦痛に歪んでいる。 「…ミキ、が。」 「みき?」 「ミキが、酷いんだ。…アキまで、うつって。…このままじゃ、…二人とも死んじまうッ」 「このガキ!死にそうなら盗んでもいいってのか!」 叫ぶ薬屋を天田は片手で制する。 「幾月」鋭い声で後ろに控える男を呼ぶと、薬屋に倍の代金を支払わせる。 「彼を車に、早く」 「ミキさんとアキさん、貴方のご家族ですか?」 車は、シンジロウが幾月に伝えた道を辿り、天田が生まれて初めて行くような裏町へと進んでいる。 自らをシンジロウと名乗った少年は、天田の車に乗ってから、居心地悪いのか、傷が痛むのか…… あるいは警戒してか、路地裏の野良猫の様に背中を丸めている。 天田が、返事はないものと車窓に気を取られていると、小さな呟きが返ってきた。 「血は、繋がってねぇ。でも、俺にはあいつらしかいねぇ」 あいつらにも、俺しか。そう、唇だけを動かす。 天田が見た限り、シンジロウは2、3歳上だろうか。しかしそれは体格を見た限りの話で、その瞳に光る力強さはもっと年上にも見える。 ぎらりと光が動いて、天田を見据える。 「お前、何が目的だ。ただの金持ちの、気まぐれか」 「君、口が悪いな」止める幾月。 「いいんだ。……まぁ、そんなところです。確かに気まぐれですが、それで誰かが助かるのなら、それもいいでしょう?」悠然と答える天田。 シンジロウはチッと鋭い舌打ちを残して、黙り込む。 車内に暫しの沈黙が下り、そして、その沈黙が破られた。 「……!アキ……!」 シンジロウの切羽詰った叫びに幾月が急ブレーキをかける。 車が停まりきる前にシンジロウは外に飛び出る。 「アキ…!ばか、アキ、外に出るなっつったろ!」 雪に半ば倒れこむようにして、白い少年がこちらを見上げる。 「……シン…ジ、シンジ……」 その顔は雪よりも白く、力なく、今にも儚く掻き消えそうに見えた。 「シンジロウさん、その人……」 車から降りた天田が声をかけようとした瞬間。 「ミキが、死んだ」 シンジロウに抱きとめられた白い少年が、氷よりも冷たい声で、死を告げた。 イズミ060914 |