「いやだッ」 ひときわ大きな明彦の声。 「……おい」 こちらは低く真次郎の声。 「いやだ、だめだ。全然よくない!」 「アキ!てめぇいくつだ!ちったぁ黙ってろっ」 真次郎の部屋、ベッドの上で噛み付かんばかりに叫ぶ二人。 互いに服が肌蹴てしまうほどに胸倉を掴み、馬鹿が子供がと罵り合っている。 「……じゃあ!さっさと部屋に戻れ!寝ろ!」 「シンジは!俺がいなくても眠れるのか?!」 「この二年間、俺がどうしてきたと思ってるんだ!」 「一人でさびしいだろうなと思ってた」 「………あほ」 「!あほだと!」 「あんま叫ぶな。向かいの部屋の奴らが起きてくるぞ」 「………」 「……お前がしたくないなら、しねぇよ。……だから、早く寝ろ」 「する」 「お前、さっき嫌だっていったじゃねぇか……」 「する!」 「お前なぁ!何がしたいんだ?!」 良くぞ聞いてくれました、と明彦の目が輝く。 「俺が!上だ!」 間。 「……は?」 満面の笑みで言い切った感全開。さあ早く賛同しろとキラキラ光る瞳が迫る。 「……上ってのは、つまり……」 「するときに」 「平たく言えば、入れたいってことか?」 なんとなく最後まで言われたくなくて言葉を攫う。 こっくりと大きな頷き。 真次郎はうんざりした顔で「なんで、そうしたいんだ」と問いかける。 「やっぱり男は勝たないとな!」 思ってた通りの答えを返された。 はぁぁぁあと肺に残った呼気をすべて吐き出す。大体の予想はもうついた。 「と、言うわけで、今日から俺が上だ!」 「アキがどうしてもしたいってんなら、まぁ…構わねぇが…。その前に一つ聞かせろ。 なんでそう思ったんだ」 構わない、といった辺りで乗りかかってこようとするのを手で静止する。 ん?と小首を傾げるのを見て、言葉を重ねる。 「昨日までそんな事言わなかっただろ、なんで急に、そう思ったんだ」 「雑誌に書いてあったんだ」 「雑誌?」 「彼女を制してこそ男だって」 「その雑誌に、ヤリ方だとかが載ってたのか」 明彦は、なんでわかるんだー。シンジはすごいなー。と無防備に感心している。 真次郎はちょっとばかりくらくらする頭を抑えて、考える。 明彦に対する全ての事が甘く出来ている真次郎なので、明彦がどうしてもしたいと言う なら覚悟を決めるのも構わない。が。 「お前な、ちょっと試したい位の軽い気持ちで言うんじゃねェよ……」 やはり男の意地とか沽券だとかを考えてしまう。 (まぁ普段はコイツに対してしてんだけどな……) 我ながら自分勝手だが明彦はその辺りには気付くまい。 「大丈夫だ!ちゃんと本を読んで勉強したから」 会話がかみ合ってない。 「お前、出来んのかよ。本番は勉強とは違うぞ」 からかい混じりで言うと、少し脹れる。頭に手を置いて撫でてやると、明彦からも擦り 寄ってくる。すん、と鼻を鳴らして首元に懐いた。 「だって……。好きな相手を気持ちよくしてやらないと、男じゃないだろ」 いつも俺ばっかりだから、シンジも。と言って、恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、 肩口に噛み付く。甘噛みというには力の篭った歯を、声もなく笑って真次郎は受け止める。 「馬鹿だな、てめぇは」 「馬鹿って言うな」明彦は、真次郎にぎゅうと抱きついて上に乗り上げる。 「俺はいつだっていい思いしてんだよ。アキとしてんだからな」 抱きしめ返して下からキスをしてやる。 「……ンッ……」 「アキ……」 熱を帯びた吐息が唇の間から漏れる。 舌の触れ合う湿った音が聞こえると、がばっと明彦が身体を起こす。 「じゃあ、じゃあやっぱり俺が上だ!お前ばっかり良いのはずるい!!」 いきなりの言葉に気を取られた隙に、真次郎のパンツを勢い良く下ろす。 「ちょっと待て!この馬鹿!」 ムードもへったくれも無い展開に、膝までずり落ちたパンツを掴んで身体を起こす。 「いやだ!待たん!お前だっていいって言っただろッ」 ベストもシャツもまとめて脱ぎながら、明彦は馬乗りになるようににじり寄る。 「なんか嫌なんだよ!どけっ」 「嫌だ!よくない!絶対どかない!」 脱ごうとする明彦と脱がせまいと腕を押さえる真次郎。 その力比べは、結局、一晩中続いた。 イズミ060912 |