いや、ではない。
ただ、とまどう。

所謂「思春期」になる頃にはボクシングに夢中で、いつも限界まで練習をしていた。
だから、そのあたりの事情には人並み以上に疎い部分があって。
疎いことにも気付いてはいたけど、誰かに聞くのも癪で、後回しにしていたのだ。

「スンマセン真田さん…。ちょっと、アレだとは思うんですけど、もうちょっとだけ、こうして貰って良いすか?」

息もつかせぬほどきつく抱きしめたまま、耳元で囁かれる。今手を放したら、逆に押し倒しちまいそうなんで、と。 強く身体に押し付けられるせいで、嫌とも是とも答えられぬまま、二人でベッドの前で立ち尽くす。

腰の辺りに熱い身体が当たってる。

ホントすみません、もうちょっとだけ。これ以上触りませんから、落ち着くまで。を繰り返す順平。
たまにゆらゆらと身体を揺らす。その動きが優しくて眠りを誘う。

「このまま、眠ってしまいたいな…」
思わず呟いた言葉を聴いて、一瞬腕に力が篭る。ぞくりと背中に電流が走る。

「アンタ、どれだけ俺ん事振り回したいんですか…」
順平からへなへなと力が抜ける。密着していた身体が離れて、温度が下がる。少し、物足りない。

こちらを見ないように目を伏せたまま、ようやく回れ右をした順平にもやもやとした思いが堪る。 隙だらけの姿にも、無性に腹が立って、右手を伸ばして首に。そのまま勢いで自分ごとベッドに倒れこむ。

「ちょお!ちょっと何!」「五月蝿い黙れ」「え、なんなんすか!」「このまま寝ろ!!」

怒鳴りつけて、ベッドに顔を伏せる。少しだけ体勢を直して体の側面だけ密着させる。
「真田サーン…。マジで、このまま?」
情けない声にも返事をしないで、寝たふりをする。

じっと息を堪えた様な時間が過ぎて、足元に畳まれていた上掛けが掛けられる。
「じゃあ、このまま、朝まで隣にいますから…」
おやすみと囁かれて少し肩が震えた。顔を上げられない。寝たふりを続ける。

もう、今更言えないじゃないか。
抱きしめて欲しいなんて。


 イズミ060825


モドル