好きなんです。
好きなんです。
好きなんです。

牛丼とプロテイン一緒に食える味覚オンチなところも。
子供と動物には妙に優しいところも。
自分にも他人にも驚くくらい無関心なところも。
自分に向けられた好意に全く気がつかないところも。
自分の感情にも気がつかないところまで。

「明彦、食欲がないのか?」
寮のラウンジ、いつものソファ。食事の途中で箸を置いた真田さんに、桐条センパイが声をかける。
「体調管理が出来ていないなら部屋で休め」
一見いつも通りの冷徹な声。でも、本当は解り難い優しさで心配している。…のに。
「美鶴、最近太ったか?」
真田さんはすべてを台無しにする上、会話になってない答えを返す。
桐条センパイがこっち向いた。あああ。すげぇ怖い。
「伊織」
「ハイ」
「この馬鹿をぐっすり眠らせて来い。起きないようにな」
底光りのする冷たい目で淡々と告げる。口調はまるで女帝そのもの。
凍えちまって動けないですよぅセンパイ。

「真田さん。メシ食い終わったなら、部屋に戻りましょうよー」
出来るだけ軽く言って、二の腕を取る。真田さんはきょとんとしている。 へら、と笑うと、よく判っていないままで微笑み返して。
「なんでだ?」
「え〜っと。ちょっと、俺の部屋に来ませんか。見て欲しいことがあるんで」
「ん?なんだ、勉強なら美鶴に見てもらえばいいだろ。そのほうが早い」
ワオ空気読めてねぇよこの人!解ってたけど!
ちらりと視線を横に走らせると冷たい眼差し。ブフダイン発動1分前。わかってますって。大丈夫。
「真田さんだけに聞いて欲しいことがあるんですよ」
耳元に唇を寄せて口早に囁く。怪訝そうな顔。ごまかすためにもにっこりと笑顔。
「…なにか、良からぬ事でも企んでるんじゃないだろうな?」
「なんスか、それ、信用ないなあ」
掴んだままの二の腕がいつもよりちょっと熱い。やっぱり風邪かもしれない。全くもう。

「…おい、手、離せよ」
低めの声。
「…気持ち悪い。寝る」
払うように俺の手をのけると、すっくと立ち上がって2階へまっしぐら。

…キモチワルイ?
誰が?俺が?
なにそれ?

頭ン中が『?』で一杯になる。
今の言い方は「胃の具合悪いのに牛丼食っちゃったやべー」とかそういう言い方ではなかった。
なんというか「うわなんかオトコに腕握られてるよキモッ」みたいな。…みたいな。
考えて俺の胃がぎゅっと痛む。

なんか、俺、嫌われた?

どわっと目の前が暗くなるような気がした瞬間。荒々しく近づく足音。 二の腕をとられ、引き摺られる様に歩く。
「さ、真田サン?え?寝んじゃないの?」何も解らないままとりあえず聞くと、
「俺だけに聞いて欲しいことがあるんだろうっ」こちらも見ないでずんずん進む。
2階に上って一瞬立ち止まる。その隙に肩を掴んでこっちを向かせる。
「ちょっと!真田サン、具合悪いんでしょう!俺のことはいーから、休んでくれよ」

「お前が視界に入るのがいけないんだろう」

「は?」

「お前が勝手に人の視界に入るのがいけないんだろう!勝手に腕を掴むし!」
「え?話が見えないんですけど」
「おまえが触るから、なんだか、落ち着かなくて…気持ちが悪く…なる…。」
白い顔を紅く染めて俯く。
「…オトコに触られて落ち着かないなんて…気持ちが悪い…。でも、一人で部屋にいるのも…」
ごにょごにょ、と言葉尻は聞こえなかった。でも全然OKだ。
「真田サン、それさぁ、もしかして俺と二人きりになりたかったって事?」
「そんなこと、あるか!」
足音も荒々しく部屋に向かう。自分の部屋に引っ込んで、ドアを閉じられる前に、ドアの隙間に身体をねじ込む。
「待って待って!今のはいーから、『そんなことない』ってのでいーから、部屋に入れてよ」
無理に入り込むと真田サンは苦々しい顔。でも、そんなとこも可愛い…なんちゃって。

えっとね、とりあえず、まずは最初から。
「んじゃ、俺が好きな真田サンのこと、話しますね。」
真田サンはきょとんとしてる。

ああもう、ほんとうに。
なんてひとだ。
そんなあなただから、俺はもう。

頭がおかしくなるくらい、好きなんですよ。


イズミ060829


モドル